最近暗記をガチればいけると散々言われている首都圏私立がどんどん難しくなっているのはなぜなのか

 今回はMBTIあんまり絡まないかもしれません。

 私立文系は表題の早慶を含めて国語(現代文+古文)、英語、社会の3科目入試が基本で、かつ記述式の問題が非常に少ないため、よく「暗記ガチれば誰でも行ける」と言われます。

 昨今ではインターネットの定着により中高生でも学歴関係の情報にアクセスできるようになったため、これまでの時代なら高校を卒業してしばらくフリーターをやるはずだったような人の中から、「1年ガチって早稲田に行きたい!」と意気込む人が出てくるようになりました。

 これまで地方では情報の欠如のために、勉強で周りを見返すとなると地元の旧帝国大学かそれこそ東大くらいしか選択肢がなかったので、あらゆる面で一念発起するコストが極めて高かったのですが、非進学校の人生設計の一部として早慶への進学が選択肢に入り「1年間暗記科目だけやれば俺も高学歴になれるかもしれない」と考えられるようになると、少なくとも心理的なコストは激減します。センター試験全科目+極めて高レベルな記述式の問題を3科目以上やる必要はなく、マークシートがメインの(一見しただけだと)暗記(すれば取れると思える)科目だけになるのですから、「ワンチャン受かるかもしれない」と考えてもおかしくないでしょう。

 現にインターネット上ではそういう情報であふれています。それなりに有名な塾の先生でも暗に「早慶は暗記を頑張れば受かる」と読める情報をよく発信しています。それに加えて個人的には今でも「ビリギャル」の影響力を感じています。いろいろからくりはあるのですが、少なくとも勉強ではダメな高校生が努力で慶應義塾大学の合格を掴み取ったというあらすじのインパクトはすさまじいのです。

 そういった情報に踊らされた受験生が早慶の受験に殺到しており、昨今では深刻な少子化にもかかわらず30代である僕の時代のマーチ・早慶受験と比べて確実に合格への道はかなり厳しくなっています。中でも、早稲田大学の受験が格段に熾烈になっているように感じます。これは、上記のような「暗記ガチれば俺も高学歴」という層のハートをがっちり掴んでいることが要因になっているかもしれません。慶應はここ15年どちらかと言うと足踏みをしている印象がありますが、早稲田の入試は明らかに難しくなっています。

 早稲田がどれだけ難しくなっているかを説明するために慶應義塾大学の法学部を例にとりましょう。ここは僕が受験生だった頃は誰に聞いても私立文系最難関だと言われていました。その評判の通り、2005年~2015年の入試では河合塾偏差値でも72.5-70.0を維持しており、2.5刻みで同点の多い河合塾表偏差値ですら早稲田政経慶應経済を寄せ付けずに私立文系単独トップの名をほしいままにしていました。

 慶應法の問題の難易度的には僕が受験したころと今を比べてもそう違いは感じません。そして慶應義塾は得点調整が少ないので、素点がほぼそのまま持ち点となるのですが、合格最低点も大体6割前後で安定しています。すなわち、慶應法合格の難しさは僕が受験生のころとほぼ差がないのです。

 それが現在慶應法の偏差値は67.5であり、早稲田政経(70.0)には明確に抜かれ、早稲田法、文化構想、商、慶應経済、商に並ばれています。しかも数値的には同格ですが、感覚的には早稲田軍団、そして慶應経済にかなり押され気味な気がしています。(ちなみに僕は慶應法と文に合格しましたがどこに行ったかは内緒です)

 合格難易度は昔とあまり変わっていないにもかかわらず、現在では早稲田や慶應経済・商に押されてお世辞にも「私大最高峰」というレベルではなくなってきているのです。当時は東大文系のすべり止めと言えば慶應法でしたが(センター利用があったのも大きい)、今では慶應法といえば私立文系専願というイメージなんだそうです。なお他では明治や青学なども偏差値を上昇させており、その他マーチとの差も少しずつ埋まってきています。明確に首都圏の私立文系は一般入試の難易度を伸ばしてきているのです。あるいはこれは慶應法の人気が落ちただけなのでしょうか?

 上記のような慶應法の足踏みは、学部の不人気ではなくて「暗記ガチれば逆転合格の夢を見せてくれる早稲田」というイメージによる早稲田大学の躍進が大いに影響していると僕は考えています。早稲田の入試改革で特に政経の共通テスト利用、数学1A必須化がもてはやされていますが、これが影響したのは東大一橋の併願層に限られており、本質的な早稲田大学のブランドイメージの向上にはつながると思えません。それよりも、ネットの普及に伴って増えた学歴志向の生徒により「ワンチャン暗記で受かる」早稲田大学への合格を叫ぶ生徒が増えているためなのかなと思っています。激ムズ小論文が必須となる慶應よりも、伝統的は入試形式を維持している早稲田大学の方がそういった層が持つ心理的なハードルは低くなります。

 また、今の生徒は首都圏や畿内にある大学であれば就活に有利という事情も理解しているため、是が非でもそういった大学に合格しようと意気込みます。受験生は心の奥底では早稲田は無理でも頑張ればマーチやそれに準ずる大学には受かれるはずだという未来を信じているのです。現に現在は人手不足もあり新卒の採用環境は非常に良好です。最近就職情報をよく見ていますが、円高不況の吹き荒れる僕らの頃と比べてマーチ、特に明治と中央商学部の実績が素晴らしかったと思います。「マーチに受かってさえしまえばそれなりに未来が約束されていると思うな」というのは文系大学生を戒める言葉としてよく言われていますが、もはやあながち間違いではないように感じます。マーチなら真面目に就活してればそれなりのところには決まっているのです。

 こうして一念発起を決意した高校生のうちの80%はまともに歩みも進められない有象無象ですが、18%は今までの人生ではありえないほどの努力を積み重ね、早慶には受からずともマーチや関関同立成成明学日東駒専に進学したりします。そして、残りの2%が早稲田大学への合格を手にするのです。そうして次世代の受験生がその2%に感化されて早稲田大学への受験を志します。なんだかんだ18%が大学生活を楽しんでいる姿を見てうらやましくも感じます(80%のことは見えていないでしょう)。これが大学の都市圏一極集中の本質だと思います。早稲田大学教育学部もここ数年モデルチェンジして異常に難しい英語試験を課していますが、それでもかつての幻影に惑わされて痛い目を見る逆転合格狙いが後を絶ちません。人間科学部だって明らかに難しくなっています。

 慶應義塾大学は文系学部では小論文を課しているため過度に敬遠されている節を感じます。慶應法の入試難易度が相対的に落ちているのも国立併願層を獲得しづらい形式でかつ異常にとっつきにくい小論文が原因となっているように思えます。そこが早稲田と慶應の差につながっているかもしれません。繰り返しますが慶應が簡単になっているわけではありません。早稲田やマーチが極端に難しくなってきているのです。慶應でもワンチャン感のある商学部は徐々に人気を高めてきています。

 つまり、ここ数年の早稲田を中心とした首都圏私大の人気は「勉強嫌いの俺でも1年頑張ればワンチャン高学歴」という期待に支えられているのではないかなと思います。受験生は「早稲田だから」とか「明治だから」といったような大学それ自体への魅力ではなく、「もしかしたら俺も就活で無双できるかも」「親戚に偉そうに出来る」という理由で文系3科目に絞って勉強に励んでいると推測できるのです。こういう層が首都圏私立の難易度上昇に貢献していますように思えます。

 そうであるならば、早稲田大学の最近の共通テストへのシフトは非常な愚策であるように思えます。早稲田大学は2025年度入試から社会科学部と人間科学部の一般入試で共通テストを必須化し、特に社会学部では一般入試の枠を削減するというのです。受験に少しでもキャッチアップしている人であればだれでも知っていることですが、共通テストはとにかく「暗記型」の生徒を叩き潰すことに命を懸けている試験形式です。いままで私の塾に来てくれている生徒のうち逆転合格狙いで来ている私立志望の生徒は、ほぼ100%共通テストでのマーチ合格をあきらめています。共通テストはそれだけ厳しい試験です。共通テスト利用を拡大するにつれて「早稲田は逆転合格できない」というイメージが一般的に広がってしまえば、今の早稲田バブルは徐々にしぼんでしまうように思えます。早稲田大学の入試担当者がこれ以上血迷わず引き続き一般入試に夢を持たせてくれることを期待します。

 明治は一般入試比率の多さを売りにしていたにもかかわらず突然2023年に非公表にしたことに不安があります。このまま古風な一般入試の優遇を続けていれば私大の天下だって狙えるかもしれません。青学はとっつきづらい入試方式と宝くじのような全学部でついた難しいという印象とSNSでのアピールにより助けられている感が否めません。今の人気はとてもバブル的ではないかと感じています。10代の間の流行り廃りは目まぐるしいですから、そのうち馬鹿らしくなった受験生に愛想をつかされて人気が落ちて、いずれ独自入試に戻るのではないかと感じていますが、来年再来年の話ではないでしょう。中央・法政は都心回帰を鮮明にしていて、入試も引き続き伝統的な英国社でいくようですから、しばらく難化傾向が続くのではないかと思います。立教は独自路線と改革組のちょうど中間に位置します。今はうまく行っていますが、英検利用のハードルがとても高いのでしばらくするとまた易化傾向に転ずるのではないかと思います。

 僕の仮説に基づくのであれば、現状活発な受験改革は5年後、10年後必ずしも大学の利益にはならず、政治の邪魔さえなければ結局ワンチャン狙いの一般入試勢に押されて伝統的な3科目入試に回帰していくのではないかと考えています。ただ、少なくとも向こう5年は訳の分からない入試形式がどんどん導入されて、ワンチャン狙いの受験生から希望を奪い去っていくのではないかと思います。

 とは言え、早稲田大学の法・商・文・文化構想・理工はしばらく現在の独自入試を堅持するようですし、慶應義塾大学は独自路線を貫いています(変更は文学部の英検利用くらい?)。こういった学部が存在する限り、ワンチャン逆転合格勢の野望が途絶えることはありません。彼らは、英・国・社会が暗記科目であり、自分だって本当に頑張りさえすれば進学校でバリバリやってきたやつとも渡り合えるはずという前提から自分も今耐えていれば合格できるという希望を胸に今も勉強に励んでいるのですが、果たして早慶は巷で言われている通り暗記を頑張れば合格できるのでしょうか?次回はこの謎を解明していきたいと思います。次はMBTIも絡めながらいろいろ考えていきたいと思うのでよろしくお願いします。