塾の運営者のMBTIタイプによる集客方法の違い(ENTPとESTP)

 この2タイプは比較的営業力の高いタイプです。どちらもエネルギッシュでよく喋り、積極的に人を説得しようとしますが、そのトークスタイルの本質はかなり異なります。

 前任者はESTPだったのですが、僕は嫌いでした。嫌いでしたが、有能ではありました。僕は嫌いな人から学ぶのが好きなので、現在の運営手法の中でこいつのやり方をパクっている部分もあります。簡単にパクれる部分もあったし、検討した結果「こんなことする奴は人間として不誠実だな」と感じた部分もありましたし、真似できない美点だなと素直に認められる部分もありました。

 当時はMBTIを知らずに観察していたのですが、最近になって当時の分析を振り返ってみると腑に落ちることが多々あります。今回はそういう気付きを整理するついでに、文章として残しておこうと思います。ENTPかESTPで初めて営業職に就こうと思っている方は参考にしてもいいかもしれません。

 ENTPの特徴1:相手を先回りして説得する

 ENTPはNeにより現在の状況から相手の思考を先回りして説得しようとする傾向があります。喋りながら相手の表情や雰囲気を読み取り、現在相手が考えていることを推測して次の一手を準備しています。

 メリット:どんな悩みでも自分に合わせて解決してくれそうに見える

 これはENTPのステレオタイプとはちょっと違うかもしれませんが、相手の先回りをするということは相手の目線に合わせて話すという事です。次の一手を準備しつつ、その代替案、代替案の代替案まで考えます。もしよいアイデアがすぐ出なくても、ENTPは問題解決において基本的に相手の土俵から離脱しません。それがどんなにばかばかしい悩みだったとしても、まずはありとあらゆる手掛かりを使って相手を分析しようと試みます。その結果、相手の心に寄り添っているように見えることもあります。もちろんENTPにそういう意図はなく、問題解決のためのアイデア出しをしているにすぎません。

 時には非現実的だったり、倫理的に微妙なアイデアを持ってきますが、必ず相手の悩みを踏まえてなるべくオーダーメイドで最適なアドバイスをしようとします。また、彼らは一般論を嫌うので、「ちゃんと自分に合わせた指導をしてほしい」生徒には信頼してもらいやすいかもしれません。

 デメリット:派手な空振りをして信頼を失うことも多い

 推測を重ねて相手のニーズを察知するので、相手を置き去りにしてしまう事があります。僕はこれまで何度も、相手のニーズを完全に読み間違えた上にドヤ顔で解決策を提案した結果、「話を聞かない人だ」という顔をされました。これで「この人は自分の事を理解してくれないだろう」と思うのでしょう。商談の序盤は相手が乗り気に見えても、これ以降明らかに生徒の態度が変わって破談になってしまったという経験を僕は毎月しています。

 生徒からうまく話を引き出す前に突っ走ってしまうようでは「話を聞かない人」と思われても仕方ありません。仮に提案そのものが正しかったとしても、正しく相手に伝わらなければ意味がありません。

ESTPの特徴1:相手にとって自分が魅力的に映るように努める

 端的に言えば、ENTPが比較的相手に合わせて問題を解決するのに比べて、ESTPは相手を自分に引き寄せようとします。自分の見せ方をよく知っており、それを元手に生徒からの信頼を勝ち取るようにします。

 メリット:「とりあえずこの人についていこう」と思わせることが出来る

 ENTPが言葉それ自体の説得力に重点を置いている一方で、ESTPはその場の雰囲気や流れを支配することに重点を置きます。そもそも受験勉強そのものが根性次第という側面を持ちますから、受験勉強のアドバイスは「一緒に頑張ろうよ!」の一言で充分であると理解しているのです。

 それよりも雑談や生徒の学校生活の話を聞きながら、生徒との信頼関係を築いていくのが得意です。漠然とした不安を抱えていたり、何となく進学を意識しだしたような生徒も一定数存在します。

 こう書くとESTPが相手の悩みに向き合っていないように見えますが、もちろんそうではありません。受験はどこまで行っても本人の頑張りが全てであり、個別のケースに合わせて悩みを深掘っていくのは原因療法になり得ません。ESTPは本人のモチベーションアップという原因療法の徹底にしか興味がないのです。ENTPの僕としては悔しい気持ちもありますが、有無を言わさぬカリスマ性という点で言えばESTPに分があると言わざるを得ません。

 デメリット:すでに充分覚悟できている生徒には刺さらない

 ESTPのカリスマ性が相手に通用しない場合は苦戦するでしょう。もちろん一概には言えないかもしれませんが、相手がある程度すでに覚悟を決めている場合はやんわりと断られるケースが多かったように思います。

 「頑張るのは分かってるし、自分の強みも弱みもある程度理解している。それで具体的に自分はどうしたらいいんだ」と聞かれてしまうと、ESTPの伝家の宝刀が封じられたも同然です。

 私の前任であったESTPは早稲田大学卒であるので、「とりあえず一緒に頑張ってれば道は開ける!」というキラーワードにもある程度説得力がありました。本人はセルフブランディングも上手だったので、自分の苦手だった点はそうやって補っていたように思えます。後述しますが、セルフブランディングが上手なのはESTPの特徴です。

 ENTPの特徴2:言葉で相手を圧倒する

 ENTPは16タイプ中で最も言語的な瞬発力が高いです。またTi優性のため論理性に重きを置くので「筋の通ったトーク」をすることにかけて右に出る者はいません。営業職において、これは何よりも必要なスキルだと思うでしょう?

 メリット:大人に懐疑的な生徒の信頼を得やすい

 受験産業において、鉄緑会ほど極端なコンセプトの組織でなければ、ある程度幅広い学力層の顧客を相手にせざるを得ません。ENTPはそれぞれのポジションに合った助言をすることが出来るので、比較的営業競争においては優位でしょう。

 また、出身高校のレベル以上の大学への進学を目指す生徒は、「悩みを周りに理解してもらえない」「周りに相談が出来ない」という悩みを抱えていることが多いです。そういう生徒に対しては大きくポイントを稼ぐことが出来るでしょう。彼らは周りの友達はもちろん大人でさえ信用していないはず(自称進学校の教師ほど頼りにならない大人はいない)ですから、基本的に他人の言葉に対して懐疑的です。ENTPは論理的な思考を通じて自らの考えやプランを言語化し、そういった生徒の信頼を勝ち取ることが出来るかもしれません。周りに対して物足りなさを感じてきた生徒ほど自分の心境を言語化してくれる大人に感銘を受けるものです。

 ……宗教勧誘の指南みたいになってしまいましたが、もちろんそういう訳ではありません。受験勉強に対して真剣に向き合っている生徒であるほど、自分が置かれている状況を言語化してくれる大人を求めているのです。

 デメリット:「この人にはついていけないな」と思われるかもしれない

 市場にはなんとなく「塾に通わないとなあ」と思っている生徒も多く存在します。むしろそういう生徒の方が多数派であり、自分が置かれている厳しい状況を言語化されることに耐えられない生徒の方が多数派です。受験勉強それ自体はさておき、商売として取り組むからにはそういう生徒にもお客様として接しなければなりません。

 ENTPは分析結果を詳細に伝える事が大事だと考えていますが、そもそもそんな情報求めていない「お客様」も存在するのです。

 どんなに的確な指摘をしても「話長いしこの人と話してると嫌な気持ちになるなあ」となれば商売としては失敗です。そもそもこういう生徒は途中からENTPの話を聞いていません。しっかり話せば誠意は伝わるなどという無駄な期待は辞めましょう。

 ただこれは個人的な方針ですがそれで折れるような生徒は来てもらってもやりづらいだけなので、それでいいかなとも思っています。数字には別に困ってないし。

 ESTPの特徴2:語気で相手を圧倒する

 一見ENTPの特徴と似ていますが、ESTPは言葉の中身そのものより言葉の勢いや声の大きさなどで相手を支配します。容姿や声の調子に気を配り、「覇気があって頼りがいのある大人である」というセルフブランディングを欠かしません。これも営業職に必要不可欠なスキルであるように思えます。

 メリット:問答無用に生徒の背中を押せる

 一見さも一大事であるかのように悩んで見せますが、その実特に悩んでいるわけではなくて、ただ背中を押してほしいだけの生徒も多くいます。これは本当に多いです。例えばENTPであればそういう生徒にいろんな解決法をべらべらとしゃべりますが、彼らが求めているのはそういうものではありません。

 大半の高校生は自らの意思で何かを「やらない」と決めるのは上手ですが、何かを「やる」と決めるのは下手くそです。なるべく迷う事すら避けたいものです。誰かに流されたいと無意識に考えていることも多いのです。彼らが求める言葉はただ一つ、「一緒に頑張ろう!」です。

 今の時代「戦略的に受験に臨むことが大事」だと誰しもが理解していますが、戦略的であるということは常に思考し、選択することと同義です。受験はどこまで行っても自分がやる事、自己責任ですから、「戦略的に受験に臨む」ということは自分で責任を負う覚悟を持つという事だと言えます。戦略を構成するために最低限必要な情報である本人の能力、モチベーション、強み弱みは究極的には本人にしかわかり得ないわけですから、「戦略的に受験に臨む」以上、受験生はどうあがいても選択する苦しみから解放されません。

 この苦しみから生徒を解放してくれるのがESTPなのです。戦略的にはさておき「頑張っていれば報われる!」と言ってくれれば、生徒は頑張ることに邁進できるのです。セルフブランディングに抜かりのないESTPであるからこそ、その言葉にも説得力が生まれます。

 デメリット:個別具体的な解決策を求められると微妙

 まあこう書くと酷く見えますが、繰り返し言っている通りESTPに言わせれば受験勉強など「本人がめっちゃ頑張る」以上の解決策などあり得ません。それ以上にあーだこーだ言われても、「悩む時間で行動したらいいじゃん」としか考えられません。

 もちろんしっかりとした個別のアドバイスを求める受験生も数多くいます。受験で成功したESTPは、実際本人もたくさんいろいろな努力や工夫をしてきたでしょう。当時は悩みもたくさん抱えていたでしょう。ですが、言語化能力が高くないので本人の印象としては「とにかく俺は頑張った!」以上に言語化できないことが多いように思います。内省のレベルはお世辞にも高くないので、アドバイスを求められると「とにかく頑張る事!」以上のものが出てこない可能性があります。

 もちろん相手に合わせた計画を立てることもできますが、あくまで一般論の範囲です。生徒が「あなたが素晴らしい大人なのは分かったから、俺にしかない悩みを踏まえた俺にぴったりのアドバイスを教えてくれ」というスタンスの場合はなかなか困惑してしまうようです。

 

 

 まとめ1:ENTPは相手に歩み寄り、ESTPは相手を引き寄せる

 唯我独尊的なイメージのあるENTPですが、問題解決においてはどこまでも他人本位です。相手のニーズをしっかりと捉えて、あくまでのその土俵の中で戦うことに美学を感じます。時にはその洞察力が暴走して相手を置いてけぼりにしてしまいますが、それも相手の立場や状況を推察したいという想いが強すぎるゆえの事です。

 ESTPは周りに「無条件で」自分についてくるように立ち振る舞います。相手の土俵に立とうというつもりは一切ありません。とにかく自分に注意を向けて相手に有無を言わせなくするということに全力を注ぎます。その結果頑張ってくれるのであればそれでいいと考えます。

 まとめ2:ENTPは選択肢を与える、ESTPは選択肢を奪う

 僕は前任と現在別事業所で働く同僚のどちらもESTPですが、どちらともそりが合いません。N/S以外は全く一緒で似た者同士であるにもかかわらず、なぜこうもそりが合わないのでしょうか。

 このエントリーを書いていて気付いたことですが、この対立軸が最も影響しているのではないかと思います。

 すなわち、ENTPはより多くの選択肢を生徒に与えることが最も大事だと感じる一方で、ESTPは生徒に選択肢を与えないことが最も大事だと感じるのです。ENTP(私)からすればESTPのやることは不誠実そのものだし、ESTPからすればENTPのやることは無駄な思い付きばっかりで生徒を迷わせるだけに見えるのかもしれません。

 Tiを持つ似た者同士で目指すゴールが似ているからこそ、お互い「何でわかんねえんだ」と考えてしまうのでしょう。

 

 最後に

 どちらも塾講師にきわめて強い適性を持つタイプだと思いますが、生徒に対するアプローチはかなり異なります。

 最終的にはどこまでいっても目に見えない可能性を重視するN型と目に見える事柄を重視するS型の違いであるように思います。

 生徒に対するアプローチの目的は「生徒と信頼関係を結ぶこと」そのものではなく、学力を向上させることであることは両タイプに共通しているのですが、それだけN型とS型の隔たりが大きいという事でしょう。

 生徒と思想の話だったり悪趣味な話をするENTP(私)の事を見てESTPは不快に思いますし、いちいち誕生日を祝ったり共テ前とか学年末とか事あるたびにイベントを催したがるESTPをみてENTP(私)は不快に思っています。

 どちらもTi優性のドライなタイプなはずなのですが、同族嫌悪とはこうやって生まれていくのでしょう。N型とS型は特に隔たりが大きいということは以前考察しています。もしよければどうぞ

 

fakesam.hatenablog.com

 

 

 他にもいろいろありますが、いったん疲れたのでここまでにしようと思います。