2024年共通テスト英語リーディングというそびえ立つクソが生まれる理由とそれを見て震える受験生に捧ぐ2025攻略法

 しばらく愚痴ってから攻略法を考えてみます。

☆6300のクソ、1.5倍のクソ、2倍以上の努力量

 今年度の共通テストが終わりました。英語リーディングの難化が話題になっています。そもそも去年の時点で分量が多すぎるという声が聞かれていたにもかかわらず今年はさらにそこから増加して6300語となりました。本文に限ると15年前と比べるとなんと1.5倍だそうです。もっと言えばかつてはある程度文法や並び替え問題に配点が割かれおり、読解問題の選択肢も比較的明快でした。しかし、共通テストになってすべて長文読解となりかつ紛らわしい選択肢が明らかに増加しました。それで制限時間は同じ80分です。

 受験生の負担としては大げさじゃなく2倍以上でしょう。「俺のころの英語なんて9割当たり前で……」なんて言うゆとり世代はかつてのセンター試験を40分以内で解くことを想像してみてください。大多数の人はそれで文句が言えなくなるはずです。

 それでも、英語が得意で集中力があって頭の回転が速い人なら「俺は40分余らせたぞ」と言い出す人もいるかもしれません。しかしこの共通テストは80分あります。80分極めて高水準で集中力を保つ必要があるのです。普通に考えて、これに「共通テスト」と銘打って多くの進学希望者に受けさせるのは狂気以外の何物でもないでしょう。

☆英語嫌いを量産するという教育方針

 そういう意味では、英語に対する一生モノのトラウマを植え付けることに特化した試験だと言えます。英語教育が「生徒に外国の言葉に慣れ親しんでもらうため行われるもの」だと仮定するならば、これはもはや英語の試験という体をなしていません。どんなに単語を覚えても、どんなに長文が読めるようになっても、どんなに音読を頑張ろうと、本番の80分の間で少し集中力が切れたり慌てたりするとその瞬間に今までの努力が全て無駄になるような試験なのです。

 勉強を通して少しずつ英語が好きになってきたにもかかわらず、この試験のせいで国立大学を諦めざるを得なくなった生徒や、志望校を下げざるを得なくなった生徒も大勢いるでしょう。日本人の英語力アップを狙うという側面もあるのでしょうが、どう考えても英語嫌いを量産しているとしか思えません。

 ここまで読んで「試験ってそういうものだろ」と思った想像力のない人は反省してください。かつてのセンター試験であれば、本番で多少行き詰ったとしても十分な知識があれば落ち着いて巻き返す時間は充分にありました。上位レベルの受験生であればカンストして100点狙いが基本になるような試験ですが、そういう生徒のレベルは二次試験で見ればよかったのです。旧センター試験は「頑張りが充分に報われる試験」であったことに意味があります。

☆どういうつもりで問題を作っているのか

 前回もそういう傾向がありましたが今回は「80点そこそこ狙い」という生徒ですら多くが10%以上点数を下げている印象です。「70点狙い」の生徒も当然軒並み下げていますが、この水準だと生徒に対応力によっては30%以上想定の点数から下げていることもあるようです。

 文部科学省がどういうつもりで問題を作成しているのか全く理解できないので、作成要領を見てきました。

 

>「リーディング」「リスニング」ともに,ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)を参考に,各 CEFR レベルにふさわしいテクスト作成と設問設定を行うことで,A1 から B1 レベルに相当する問題を作成する。また,実際のコミュニケーションを想定した明確な目的や場面,状況の設定を重視する。 

 

 とのことでした。CEFRレベルB1とは準一級ギリ不合格~二級ギリ不合格レベルですが、とんでもないです。80%の得点率を取るとすれば、リスニングは準1級と2級の間、リーディングは準1級レベルが必要な気がします。B1中位レベルでは50点台も当たり前に取ります。どう考えても作成要領と難易度が整合していません。

 おそらく、作問者側の言い分はこうでしょう。「英検準一級レベルよりは確実に平易な文章を用いているので問題ない」。非常に狡猾な言い訳です。確かに、文章自体はある程度平易で、英検二級レベルの実力があればそれなりに読めます。

 しかしそれは詭弁でしょう。受験生や受験に携わっている人なら分かるのですが、大抵の場合、共通テストの厄介な点は時間制限の厳しさや紛らわしすぎる選択肢という英文の難しさとは無関係な点に由来するからです。英検二級順当合格者(CEFRのB1中位層)が安定して75点取れますか?ほぼ無理でしょう。この作成要領はすでに破綻しているのです。なぜこのようなそびえ立つクソ、それも受験生の人生を左右する罪深いクソが生まれてしまったのでしょうか?

☆共通テストの闇

 そもそも、旧センター試験は誰の目から見てもある程度公平な試験であり、受験関係者からは改革すべきだという声はあまり聞かれませんでした。一方で外野から見て旧センター試験は「日本の悪しき受験戦争」の象徴であり、「受験勉強が高校生の健全な学習を阻害している」「現実社会での応用力に欠ける」という声も根強く存在していました。そこから高大接続の考え方が生まれ、その声をどこかの政治家やどこかの大手教育関係会社が結託し制度をこねくり回して大学入試改革が始まったわけですが、その結果生まれた忌みの子が共通テストです。

 その結果はどうでしょうか。範囲学習は偏差値50-60程度の高校の授業では到底間に合わず、テストそれ自体の対策に係る時間も倍以上に増加しています。「受験勉強の健全化」はどこへ行ったのでしょうか。これでは高校3年生から学問に目覚めたような生徒はほぼノーチャンスです。「現実社会での応用力」についても同様です。百歩譲って数学にはその要素が見られますが、英語については生まれ持った処理能力試験ようなもので、現実的に活かしたいのなら本文の難易度を上げて選択肢を明快にした方が百倍マシでしょう。

 「子供をSAPIXに行かせても大学では日東駒専も受からないかもしれないから中学受験で日東駒専の系列に入れる」という嘘みたいなニュースがありましたが、大学入試制度がこんな感じではこの流れもますます加速していくでしょう。行きつく先は経済力に基づく教育機会の固定化・階層化です。

 ちなみに私立大学の定員厳格化も大体同じ理由です。いつだって制度の劣化は利益を得たい人間によって事情をよく知らない人間が扇動されることによってはじまります。そしてその犠牲になるのはいつだって力を持たない問題の当事者です。近い将来、私立大学ですら学力による合格者は特別な才能に恵まれた人間に限られたようになるでしょう。

 こんなこと素人の僕でも見通せるのですが、それでも学力入試の旗手である「忌みの子」は難化を続けるでしょう。そうでもしないと、大金を使って評判の良かったセンター試験を廃止した意味がなくなるからです。おそらく「より効率的な選別」をするという名目のもとに来年はさらに難しくなると思います。

☆それでも踏ん張って学力で目にもの見せてやれ!

 そんなクソみたいな社会ですが、それでも愚痴ってばかりはいられません。現に点さえ取れたら希望の大学に入学するチャンスは残されていますから、受験生は黙って勉強するしかありません。どうすればよいのでしょうか。

1.過去問や予想問題集を70分で解き切る訓練をする

 単語数の増加に対抗するにはこれしかありません。限られた時間で素早く的確に判断する能力を鍛え続けるしかないでしょう。「最初から大問5は捨てて……」と対策したがる人が多いですが、演習段階ではそれで何とか80分に間に合わせたとしても本番で少しペースを崩されると一気に崩壊します。これは今年、去年と受験生を見てきて私も思い知らされています。そういう戦略は絶対に避けてください。2024本試験レベルを70分で解くのは最初は無謀なことに思えるかもしれませんが、本文の難易度自体はそう高くないので何度も予想問題集を繰り返していると次第にコツがつかめてきます。辛くても歯を食いしばって余裕をもって解き切るトレーニングを繰り返すのが何よりも大事でしょう。

2.世間で「共通テストレベル」と言われる数段上の参考書に取り組む

 例えば、「ポレポレは旧帝早慶クラスだから普通はやらなくていい」と言われますが、そういう参考書にこそ積極的に取り組むべきです。なぜ本文が比較的平易な共通テストが準一級レベルの難易度なのかというと、準一級レベルの構文解釈力を持っていることが前提だからです。つまり、「これくらいの基礎的な文章は日本語と同じくらい素早く読めて当然だよな?」という前提のもとに設問が作られていますから、そもそもそれ以上に難解な文章に慣れ親しんでいないと全く歯が立たないのです。

 例えば、皆さんは共通テストレベルの国語はすらすらと読めるか分かりませんが、こういったブログの文章程度ならすらすら読めますよね?それは、ある程度ハイレベルで格調高い文章にもある程度耐性があるからです。だから大学入試レベルの国語でもそれなりに戦えるのです。これは、そういう人であれば平易な文章の構造など考えなくても一瞬で把握してしまえるからなのです。

 これは英語でも同様です。難解な文章を読む訓練をしないと、安定して平易な文章を読めるようにはならないのです。これからの受験生は共通テストレベルだとしても「ポレポレ」「透視図」といったハイレベルな英文解釈の参考書に取り組んで、平易な文章を文字通り瞬殺するようにしなければならないでしょう。「基礎英文解釈100」レベルが完璧になってやっと60%安定してくると思います。

3.第2回河合塾全統模試で志望校のボーダー+10パーセント

 大手予備校の模擬試験は基本的に前年度の本試をベースに作られていますが、もはや共通テストがどのような難易度で出題されるかはだれも予想できません。もはやB判定だからと言って喜んでいる余裕はありません。基本的にはボーダー得点率の+10パーセントをクリアするように心がけるべきでしょう。もし第1回模試でそれに満たないのであれば、睡眠時間を削ってでも、青春を捧たいと思った部活を辞めてでも、勉強に費やすべきです。無理だと思うなら、地元の国公立大学を諦めて地方の一番手私立大学志望に切り替えるか、共通テストを課されない地方国公立大への推薦での合格を目指すようにしましょう。安定してボーダー+10パーセントの合格率が出るようになったら安心していいと思います。

 旧帝レベルを目指すのであれば、基本的には満点を目指してください。安定して9割取れないのであればまだまだ努力を重ねる必要があります。模試で8割程度だと本番で大コケする可能性があるので、英語の勉強時間を増やしましょう。

4.パラグラフリーディングを徹底する

 ほぼ1の繰り返しですが、今回の共通テストでは選択肢自体は比較的平易で絞りやすかったです。時間制限の都合上「なんとなくこれかなあ」と回答する必要性もありますが、その「なんとなく」の精度を上げることにコツがあります。そのためには、段落ごとに頭の中で軽く要約しながら文章を読むことが必須であると言えます。慣れないうちは段落ごとに軽くメモしてもいいので、ざっと段落ごとの要約をしながら読んでいく態度が必要でしょう。英語という教科は言語を扱うので単語さえ分かっていれば何となく理解している気になってしまいます。しかしその程度では「本当はろくに理解してなった!」ということも充分あり得ます。理解を言語化する癖を付けなければ、いつまでたっても点数は安定しないでしょう。

☆終わりに

 どうでしょうか?これが本来大学入試改革が目指すべき試験の姿であったとは到底思えませんが、少なくとも来年の入試でも非常に厳しいレベルでの出題がなされると考えられる以上、我々はその対策に取り組むほかありません。

 さすがにそろそろ人間の処理能力の限界に達しつつあると思うので、個人的にはこれ以上難化しないのではないかと思いますが、相手は「忌みの子」です。平均点50%というターゲットを来年も達成するためにはさらに難化することも考えられます。

 標準的な地方国公立大学を志望するのであれば、リーディングは60%程度の得点率を目標にしてその分2025年度より追加される「情報」に力を入れるのも戦略でしょう。こちらはサンプル問題を見る限り比較的低難易度で作問されることが予想されます。いずれにせよリーディングで模試で安定してボーダーを大きく上回るような得点が出来ないのであれば、リーディングへの期待はほどほどにして他の科目に力を入れた方がいいかもしれません。

 もちろん難化傾向が収まる可能性も充分考えられますが、「だから来年は大丈夫だ」とは口が裂けても言えません。それほど今後の状況は不透明だし、なにより作問者が本来の約束を守る気がない以上合理的な難易度の予想などしようがないのですから。